宿舎に入って4日後の朝、俺は仕立て屋を訪ね、新しい服を手に入れていた。
いやぁ、やっぱりなんていうの?俺は見るのは好きだけど、自分がコスプレすることにはあまり造詣は深くないんだけど、テンション上がるわ。
というわけで、普段着を2セット、狩り用を1セット作りましたよ。〆て22000カレス。今俺の手元には20000カレス。発注時に前金5000カレス入金してるから、今日の支払いは17000カレス。宿舎で生活してたら、メシ代かかんないのは大きいね。
4日ぶりに外に出たから太陽が目に染みる・・・。
まぁー、君たちはこの4日間僕が何をしていたのかきっと気になっているだろう。
きっと、チートやスキルや魔力量とか、そんな異世界の定番が全くなくて、さぞかし俺が気落ちしているだろうと思っていたに違いない。
だが、この二代目赤、そんなにヤワではない。
まぁ、ショックじゃなかったと言えばそれはそれで嘘になる。
まぁ、さすがにね。
しかしだ、まぁ君たち聞きなよ。 異世界転生ものが飽和状態と言っても過言ではないこのご時世、すでにチート持ちや、スキル鑑定、経験値アップとかはもはや使い古しのネタなのだよ。
・・・まぁ、一応。一応ね?夜宿舎の部屋でやってみましたよ。いろんなポーズで。 “ステータスオープン!”を。
えぇ、別に何も起きませんでしたけど。まぁ、強いて言えば、間接照明の明かりが少し明るくなったってくらいかな。「暗ぇなぁ」って愚痴ってたのがスタッフに聞こえてたらしい。
なんかすみません。
チートなしに「え!なんで!!」となって話が展開していく異世界ものだって多い。
いや、今やこれが主流と言ってもいいかもしれない。
やはりね、二代目赤が異世界転生するとして、そんなチートやスキルなど、そんなものがなくても立派に生き延びられるということを、証明する日が来たのかもしれない。
おじいちゃんなんて言われて、なにやらぽんをするたびに、メンバーからもリスナーからも生暖かい目で見守られ・・・。 そんな日々とはおさらばだ!
事実、俺の肉体は飛躍的進化を遂げているのだ。
聞きたまえ、君たち。
思い出してほしい。転生当日、僕は大冒険をしていたんだ。
自宅から気が付けば大地に寝そべっていて、衛兵さんに連行され、ケーブルウェイでしゅーっと空を横切って、高層ビルの市民課でいろいろ手続きをして、宿舎に入る。
二代目さんの普段の生活を考えると、明らかにカロリー消費過多だ。 それもスリッパで。
それなのに、だ。
身体がどこも、痛くない。
どうだ?すごいだろう?
1日お出かけするだけで、足が痛くなり、寝たき・・・動きづらくなる俺が!
昨日一日スリッパで動き回っていたというのに! どっこも痛くない。 膝だってぱきぱき言わない。
すごいことだよ、これ!
というわけで、自室で朝、とてもすっきり目覚めたわけだ。 いや、ここのベッドなかなかいいぞ。後でどこで買えるのか聞いておこう。
それで、だ。 ベッドの中で少しだけ思考を整理した。
ステータスオープンで何も起きないということは、マンガやアニメや小説のような世界ではなく、どちらかといえば現実に寄った世界なのではないかと。
え?何を言ってるかわからない?
大丈夫だ。俺もわかってないからして。
つまりだ。チートとかスキルとか、そういうので無双する世界ではなく、自分で何かを集め、少しずつできることを増やしていく、マイクラとか、7DTDとかの世界観というか、システムなのではないかと、推察するわけですよ。
いや~、でも現代日本というか、俺がいた世界と全く同じってことはないと思うわけよ。さすがにね。
少なくとも、魔法は存在しているみたいだし。 ただねぇ、生活魔法がほとんどって感じだな体感的に。
俺も習いましたよ。火の付け方。暖炉のね、火の付け方。
手のひら広げて「ひぃ~」つってね。
いや、うそだよ。
この世界の魔法は、基本的に道具を使うものらしい。
魔法道具ってやつを使うんだ。これを使えば、簡単に火はつくし、水も手に入る。
ホテルの宿舎には基本的な魔法道具は置いてあるから、ここで使い方を覚えろってことらしい。
日々勉強ですよ、ほんとに。
ところで。
この数日間で、何個か分かったことがある。
いろいろ考えてんだぁ、俺だって。
ポケットにワイヤレスマウスが入ってただろ?あれの他にも何個か向こうから持ってきたものがあった。
初日の夜、部屋のデスクにそれらを並べた。 まず、スマホ。充電はまだ生きてた。残り3%だったけど。まぁ、これは使えるわけがないからどうでもいいか、と思った。 次に、イヤフォン。これも、充電持ってた。スマホの充電が十分なら音楽聴けたんだけどなと少し残念だった。
それに、タバコとジッポ。電子タバコはポケットに入っていたが、ヤニのほうを持ってきていなかった。残念だ。手元にあるのは、残り6本のタバコ。少ないねぇ。
俺は思ったよ。この6本は大切に扱わなければ。
ここに来るまでの道中、街中でタバコを吸っている人を見なかった。
てことは、この世界にはタバコというものは存在しない可能性が高い。
もしかしたら分煙化が進んでて、俺の知らないところに喫煙所がある可能性もゼロではないが。
あとはリップクリームと、蒲焼さん太郎が1個。1個かぁ。でもないよりいい。大切にしよう。
というわけで、その日1本のタバコを吸ってからベットに入った。
次の日の朝、タバコは6本のままだった。 どういうことだ? 昨日数え間違えたのか?と思い、スマホを見た。
いつもの癖でね。
そしたら充電が復活してた。
「えぇ!!」 と思わず声が出たね。 だって、昨日赤かったんだよ、電源マーク。 俺は試しにロックを解除してホーム画面を見た。 電波マークはもちろんついてないし、5Gマークもない。 そもそも世界が違うんだから、電波が立つわけない。 でも充電は増えてる・・・。
「なんで?」
俺はしばらくスマホを見つめて考えていた。結構な時間、考えてた。
「いや、わからんわ」
俺は考えることをやめた。 スマホの音楽アプリを開き、イヤホンと接続する。耳から聞き慣れた曲が流れてきてホッとする。 次はあたなるの歌みたを聴こう。
耳馴染みのある曲を聞いて心を落ち着かせ、Tシャツとチノパンに着替えて、靴はご自由にお使いくださいから借りてきた靴を履いて、とりあえず食堂へ行ってみることにした。
足を踏み入れると、すぐにスタッフがテーブルに案内してくれる。朝はセットメニューになっているらしい。ビュッフェなら好きなものだけ取れるのに・・・と少し残念だった。 運ばれてきた朝食は・・・健康志向という感じの、野菜多めのメニューだ。
だめだ。二代目さんは肉を欲しているんだ。草なんて食えるか!と、パンをミルクで流し込み食事を終えた。
「肉が食いてぇな」 そう呟くと、店の奥から、薄切りの肉を何枚か焼いたものが運ばれてきた。
「お口に合わなかったですか、申し訳ありません」
そう言って、美味しそうな肉が目の前に並べられた。
「えぇ!いいんですか!!ありがとうございます」
その時の俺は、誰もが見惚れるような笑顔をしていたに違いない。 声も弾んでいたことだろう。自分でもわかりやすくテンションが爆上がりしたのを感じた。
追加でパンももらい、それをゆっくり味わって食べていると、近くのテーブルの客の話が飛び込んできた。
「アステーの近くにわいていた魔物の群れ、討伐されたんだってな」
「あぁ、聞いたよ。良かった、来週あの辺を通る予定だったんだ」
「どうやったら1人であれだけの魔物を倒すことができるんだ」
「そうだよなぁ、来たばかりの頃は、魔物の骨を使って自分で作った剣を使っていたんだろ?」
「そうだってな。そんな発想どうしたらできるんだ。いやぁやっぱり、稀代の英雄って感じだよな」
「彼を囲みたいと狙っている貴族がいるらしいぞ」
「反王制派のやつだろう?」
「でも彼がそっちについたらどうなるんだ?」
「うーん。どうなるんだろう、相当やばいことになりそうだけどな」
「英雄が一夜で反逆者になってしまうかもしれないのか」
「いや、今のところ彼は全く相手にしていないという噂だ。興味はないんだと」
「そうか。反王政派の奴らもこんなに噂になるくらい目立つ動きをして、何を考えてるんだか」
「王都祭も近いっていうのにな」
もぐもぐと口を動かして、肉の味を噛み締める。
物騒な話してんなぁ。
そうか。王政派と反王制派があるのか。 こんなに平和で、異世界から来た俺にも親切な政治を敷いている王様に俺はすごく感謝してるけどな。
確かトワさんが、「異世界からの転生者にも幸せに暮らして貰いたいというのが転生者保護プログラムの根幹」だとか言ってたしな。
よし、俺は全力で王制派に尽くぜ。 心の中でうんうんと頷いて、俺は席を立った。
宿舎のフロントにあった【ようこそ!テリワース王国へ!】というリーフレットと、【テリワース絶景100選】という本を借り、自室に戻って、とりあえずこの世界のことを知ることにした。
やはり、今いる場所について知る必要がある。
王国の成り立ち、各都市の紹介、おすすめスポット、旅行案内所の連絡先―――連絡先? そこには番号の羅列ではなく、不思議なマークがあった。 「これ、なんだぁ?」 丸い・・・うーん、形としては碁石?碁石の真ん中がなだらかにへこんでる、みたいな。伝わるかな。これが異世界の電話番号的な何かなんだろう。
俺も使えるようになんのかな、今度トワさんに聞いてみよう。
リーフレットには地図が付いていて、それを広げて見ながら、絶景スポットの写真集を見ていった。地図とか結構すぐ覚えるんだけどね。・・・でも現地に行くと迷っちゃう。なんでだろ、フシギダネ!
ここは、ヴァルティというテリワース王国の王都。年配の人だと、新都と呼ぶ人もいるらしい。ヴァルティは70年位前に遷都されてできた王都らしい。
それまでは、オットーというオットー霊峰のふもとの街が王都だったが、今は学術都市として機能していると書いてあった。
面白かったのが、リーフレットにも、写真集にも、王族のコラム?みたいなのや、王族を見た!的な記事があったこと。どうもこの国の王族はおもしろ集団らしい。俺も会ってみたいな。
ヴァルティのこの古い町並みは昔から徐々に作られてきたもので、官公庁があるあの高層ビル群は遷都に合わせて張り切った王族が頑張った結果らしい。
なんだそれ。
この部分は〇〇王子が!ここは〇〇様が!ここは〇〇王が!実際に建築したんですよーって写真付きって。
意味わからん。
今度テリワース王国の歴史みたいな本を借りてこよう。
魔物出没マップ、魔物分布図、などもあり、異変を感じたときは各自治体の生活安全課へ連絡を、と、さっきの変なマークが印刷してあった。
街中に行って、これから住む家を決めるために必要な情報を集めたいが、いかんせん、服がまだできていない。受け取るまで出かけることはできない。これは、俺のこだわりだ。
音楽を聴きながら備え付けの雑誌を読んだり、フロントに頼んで、テリワース王国についての本を持ってきてもらったり、俺としては結構充実した日々を送っていた。
2日目に、タバコを2本吸ってみた。
翌朝には6本に戻っていた。スマホの充電も満タン。
3日目には思い切ってタバコを5本吸ってみた。蒲焼さん太郎ももし戻ってこなかったらどうしようと思いながら食べた。安定のうまさだった。
翌朝には、タバコは6本に戻っていたし、蒲焼さん太郎もピカピカに輝いて机の上に鎮座していた。
これは俺にとってはとても喜ばしい出来事だ。
もとの世界から持ってきたものは消耗しない?
どういう原理かはわからないが、とにかくそういうことらしい。
ということは、俺の体も、1日経つと元の状態になるってこと?
そういうことなら、まぁ、ありがたく・・・って、これをチートとは呼びたくない。
これは、偶然だ!偶然!!
いや、タバコはありがたいですけど。
こうなると、封を切ってないやつポッケに入れてればよかったと思っちゃう。
そう、俺の考察によると、俺がこっちに持ってきているアイテムっていうのは、気を失った瞬間に、身近にあったもの、より正確に言うと、体に触れていたものではないかと。多分あの時マウス握ってたし。身近にあったものになるとPCも含まれそうだからな。多分触れていたものだと思う。
・・・キーボードに触れてなくてよかった。あんなん持って転生してたら、ほんと間違いなく不審者だよ!
あとは、タバコを吸いに行ったときにカーディガンのポケットにタバコとジッポ、スマホを入れていたし、チノパンのポケットにはリップクリームが入ってる。寝る前の恰好だから、足元がスリッパなのも納得だ。いや、このスリッパもお気に入りなんだよ、肌触りがいい。まぁ靴下はいてるけど。蒲焼さん太郎は、覚えてないけど、ポケットに入ってたんだろうね。キッチンで食べようとでも思ってたのかな?
ただ、その考察を終えた時、俺の心にとてつもない後悔が湧いてきた。
俺はなんであの時、焼き肉弁当を食いきっていたんだ。まっさらの焼き肉弁当を持っていたら、今!ここに!焼き肉弁当があったかもしれない。毎日!焼き肉弁当がおはようございますとやってきてくれていたかもしれない!くうっ!
まぁ、ちょっと話が横道にそれたが、ただただ部屋でダラダラしてたわけではないということは君たちに伝わっただろう。 二代目さんの鋭い観察眼があればこのくらいの考察はチョロいってもんよ。
仕立て屋でお金を支払い、試着室で着替えさせてもらった。
うん、俺的にはちょいひらひらしてる感があるけども、まぁ、いいんじゃないだろうか。
鏡を見てうん、と頷いて試着室を出た。
「ありがとうございました」
「あらぁ、お似合いですよ、うん、やっぱりその色で正解でしたね」
そうなのだ。俺は結構配色に悩んだのだ。そしてブラウスもかなり絞ってもらったり、袖口がリボンで引き絞るタイプだったのを、普通のワイシャツの袖口のようなデザインにしてもらった(伝わらなかったところを見るとこの世界ではあのデザインはないらしい)
もちろん腰にはジップラインに乗るときにカラビナをくっつけるリングもつけてもらったし、ブラウスは深いえんじ色、ジャケットは黒に近いグレー、ベストは黒、ポケットやベルトにつけるタイプのポーチなども一式ドンだ。
狩り用のほうは、やっぱりね、二代目さんと言ったら、射撃ですよ。
木の上や茂みで、魔物が現れるまで何時間でも潜伏できる忍耐力を持っていますから。よゆーっす。 ってことで、少し丈夫な皮を使ったジャケットにズボン、ブーツに加えて、雨もしのげるローブ、矢筒に弓ベルト、弓用グローブ、ロープやナイフ、サーベルを結わえることのできるツールバッグなどもまるっと頼んでおいた。
このね、皮の感じがいいんだ。これは、大事に磨いてあめ色にしたいよ。
ちなみに、皮のお手入れは・・・って聞いたら、獣脂を使ってるって言ってた。獣脂・・・俺、たぶん、においダメそうだ・・・。あめ色の使いこまれた革製品とは巡り合えないかもしれない。
ショップカードを手渡されたときに見覚えのあるマークを見つけた。
「あの、これって・・・」
「あ、これは、この店への連絡手段よ」
「え・・・っと」
「あ、そうか、まだ登録がすんでいないから支給されていないのね?」
「・・・はぁ、そーなるのかな?ん?でも転生者登録はすんでますよ?」
仕立て屋のおかみさんの話を聞くと、ストーンIDというものがあるらしい。これの登録にはしばらく時間がかかるそう。そして、確実に個人が特定できるらしい。市庁舎で権限を持っている人間が、IDの追跡ができるとか・・・。
「え、監視されるってこと?」
「え?監視?」
「え?だって、自分がどこにいるのか把握されるってことでしょ?」
「んー、どちらかというと、自分に何かあった場合に助けに来てもらえるっていう認識かしら」
うーん。それは受け取り方の問題だな。
俺はこの制度、いやだな、って思った。
だって、見張られてるみたい。
「でも、このストーンIDには、くらい街道を歩いている時とか、行く先の街頭が自動的に転棟したり、帰りが遅くなりそうなときの連絡とか、とにかく便利なのよ」
「そうなんですね、すごいなぁ」
他国の文化にいちゃもんを付けるのはよくない。自分が嫌だなって思うなら、使わなければいいだけの話だ。
「今日はお金を持ってきてくれたけど、ストーンIDがあれば、それの中にお金を登録できるから、移動も楽だし安全よ」
うぐぅ。 キャッシュレス社会に慣れた体にはすごい誘惑だ。
まぁ、たぶんトワさんから受け取るだろうから、その時に確認すればいいか。
宿舎には7日間しかいられないと言っていた。その間に住みたいと思う場所を教えてもらえば、空いている住居を提供します、とのことだった。太っ腹だねぇ。
ただ、都心部にはほとんど空きはないそうだ。それはそうだろう。誰だって都心に住みたいだろうしね。
住居案内という資料に提示されている場所は、いわゆる旧市街と言われている場所となっている。ヴァルティという都市は、都市防衛という意味では本当に意味不明なつくりをしている。
たいていの異世界物では、王宮を囲むように円状、もしくは格子状に街は広がっていく。そして一番外側に城壁があるんだが、ここは街の西~南側に旧市街、東側、北側は新しく作られた街となっている。広さは・・・東京23区とか、そんくらいの規模。・・・いや知らんけど。そんで、真ん中があの高層ビル群。俺は西の大門から入ってきたらしい。大門は、それぞれの辺の中央にある。城壁は後で知ったんだが、2重になっていると。大門の部分は二つの城壁の間の空間が入場口の受付。
俺は衛兵にここに連れてこられた、ということ。最初ね、最初。
それで、その受付の通路には扉があって、そこを進むと入都市管理の事務所とか、衛兵の事務所、その他もろもろいろいろな施設があるらしい。
チェリトリに会ったのも、この入都市管理エリアの警備局の事務所だったわけ。
城門の間はそうだなぁ、利根川の川幅くらいあるかな。たぶんね。
で、門を都市側に出ると、橋があって、堀が城壁に沿って張り巡らされている。あ、もちろん都市と逆側の城壁沿いにも堀があるよ。・・・たぶん、あったはず。なんか、記憶がさぁ、いまいちはっきりしないんだよ、こっち来たばっかりで、さすがの二代目さんも混乱していたんだろうね、はっはっは。
で、おもしれーのはここから。
どんな話を読んでも、王宮というか、王族が住んでる場所って街の中央、一番外敵から遠い場所、だったわけよ。
だけど、ここは違う。
この王都は城壁が四角形に囲っていて、その四隅に王族の住む家があるんだよ。
俺、王都の地図見てて、マジでビビった。
まぁ四隅に結構広い区画があったわけ。ここなんだろう~?って見てみたら、『王宮※現王グラディス様と王妃スーフィ様、第2王子のウィンセラ様、第3王子のアルトゥール様が居住』って。え!北東の、ほぼ城壁に隣接しているここが、王宮??ってなるよね?
次に北西を見てみた。『皇太子宮※現在はサティラス様とアンカレス家のミント様が居住』南西は『王族宮※現在は王族タクティス様、ルーシア妃がとお子様方が居住』南東は『王族宮※現在は王族ハールド様、ミスラ妃とお子様方が居住』って。
そう言うのって機密事項じゃないの?俺がこの都市を攻めるなら、まず北西の角から侵入して最速で王様の首を取るけど。
そして、中央の官公庁の一つ外側の区画が貴族街らしい。官公庁から北に橋を一つ渡った正面にアンカレス家の邸宅、地図上で見ると、官公庁を三角形で囲む位置、東側にミンカレス家、西側にユンカレス家と、ひときわ大きな区画があった。
これは、この国のお偉いさんの家かな?
王都ヴァルティは、テリワース王国のほぼど真ん中に位置している。城壁の長さは1辺が25km、面積は625㎢らしい。3代前の王様の時に立案され、張り切った当時の皇太子が土方軍団(王族の別名らしい。マジでイミフ)を引き連れて測量をしたそう。
この国にはカレスという一族がいて、魔法学術を一手に引き受けている。これは、あれかな?あの大きな区画のアンカレスとかミンカレスとかユンカレスとか、そこら辺の一族なのかな?
まぁ、とにかく、この国は、建築と魔法に長けた国だそうだ。
だが、俺は不思議に思った。
こんなに魔法に長けている国と言われているのに、なぜ生活魔法しかないんだろう?俺がまだ知らないだけ?
あ、そうか。この間の登録手続きの時の検査の器具、あれもよく考えたらすげぇ設備だ。すべての医療検査がいっぺんにできるんだもんな。そういうところに力を注いでいるってことか?それでも不自然だよな。攻撃魔法とかがないって言うのは。ま、それはおいおい知っていけばいいだろう。
この国は、もとは、複数の家族が固まって暮らすのが当たり前だったそうだ。庭に屋根付きのキッチンダイニングがあり、そこで複数家族で食事をとる感じ。うえーマジで?なんか窮屈そう。
料理はだいたいの国民がそこそこできるのだそうだ。みんなで食卓を囲み、大皿から取り分けて食べる。そうやって親睦を深めていたと。まぁ、うん、それはわかる。でも俺は、個食がいい。大皿から取り分けるって言うのは、ちょっと俺にはなじめない。
今はさすがに核家族化というか、個々の生活が重んじられるようにはなったらしい。それまでは、レストラン、外食という概念自体がなかったというから驚きだ。
そして、ちょいちょい目にするロンドという言葉。これは特に説明文はなかった。いったい何だろう?俺の想像するに、たぶん謎制度だと思うわ。うん、たぶん。
まぁ、話がそれてしまったが、俺が何を言いたかったかというと、どこに家を構えるかって話だ。
資料によると、ヴァルティ以外でも構わないということ。ただ、ほかの街がどんなものなのか全くわからないから、正味ヴァルティしか選択肢にない。最初の家以降の引っ越しについては、個々人でご自由にどうぞということだった。とりあえず家をもらって、いろいろ冒険してさ、気に入った場所があったらそこに仮拠点を作るって言うのも一つの手だよね、二代目さん、かしこい!
というわけで、俺は街中歩いてみることにした。体力の回復があるって素晴らしいね。宿舎のフロントにどう回るのがいいかなって相談したら、各区の特色を教えてくれて、住みやすい場所とかいろいろ教えてくれた。ほんと手厚すぎる転生者保護プログラム。なんなんだいったい、この国は。俺の予想を簡単に裏切ってくれるよ全く。
まずは王宮に行ってみることにした。ロードパイプという2階層交通手段を使ったんだが、俺にはまだストーンIDというものはないから、現金払いだ。1乗車10カレス。わかりやすい。とくとく切符のような概念はまだ内容だった。未熟だな。
透明のパイプのような路線の中を、バス的な乗り物(レトロでかわいいんだこれが)が走っている。が、車輪はない。たぶんこれは、上のホットラインにあったエグモビルの大型版だなと思ったら、やっぱりエグモビルと呼ばれていた。パイプ自体に路線情報が組み込まれているんだろう。自動運転だ。快適。
飛ぶように変わる景色を眺めながら、イヤホンで音楽を聴いている。結構最近までこれは夢だろうだからめいっぱい楽しもうと思ってたけど、リアルに転生したんだろうなと思い始めていた。そうなると、やっぱり、未練があるわけで。
ピスパもあたなるも、もちろんリスナーにも。
配信者として生活ができるほどになるまで、ずっと見守ってくれてたリスナー、最近知って応援してくれるようになったリスナーに、もう会えないんだなと、時々ぎゅっと心臓を鷲頭神にされたような気持になる、から、思い出さないようにしている。
だって、そんなの、寂しいじゃんか。悲しいじゃんか。
リスナーと軽口をたたきながらする配信も、のどの調子が安定しなくて、歌枠の後はいつも俺のザコ喉がよぉと思いながら見返したことも、企画配信のためにみんなと会議をして分担して、何度もやり遂げてきたことも、もう、それは自分のものではないんだと思うと、正直つらい。
俺が急にいなくなって、りゅーじくんはすごく心配しているだろう。カズにぃや自由くんとか、関東組はうちに様子を見に来てくれているかもしれない。物理的に駆けつけられないメンバーも、きっと心配してくれている。それは、確信できる。
だからこそ。
いなくなってごめんな、
一緒にやっていけなくてごめんな。
その言葉を伝えられないことがすごくつらいし、その現実に心が折れそうだ。
だから、俺は考えないようにした。
前を向いていく。
もし、これがめっちゃ長い夢で、目が覚めた時に余すことなくみんなに語れるように。
俺は、そう、決めたんだ。